日々のこと28

ジョギング7  感動の大ロマン編

ここまでたどり着いた方。あなたはエライ。しかし…
↑ こう言うタイトルでもないと読んでもらえないと思ったものですから…

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 雨の公園を走った。
 一周数百メートルの歩道を数十周ゆっくり走った。
普段は球技に興じる子供たちや、犬との散歩を楽しむ人々で賑わうここも、
こんな日は静かなたたずまいを見せている。
道を埋め尽くしている落ち葉も、黒く空を指差す木々も一人占めだ。
そして少しの寒さを我慢すれば、
すぐにいつまでも気持ちよく緩やかに走りつづけていられる時間がやってくる。
 
 視線を落として走る。
 足元にどこまでも途切れることなく続く落ち葉が織りなす模様は、
やがて直接心の中の模様を見ているように感じ始める。
 もともと自分の心中にあったのかもしれないと、
確信に近いものが生まれていることに気が付く。

 一種の懐かしさとともに、その限りなく連なる模様を追いつづける。
そんな落ち葉の一枚一枚なのかも知れない。
短い言葉に姿をかえては脳裏を横切って消えていく。
 
 たとえば、ヒトツイイソビレタヒ…
 たとえば、ドコカアレノデ…


 きっとあの言葉の群れは、正確には消えてしまったのではなく、
この現実の風景のようにどこか心の隅に吹き溜められていくのかも知れない。

 視線を少し上げて走る。
 遠くのほうに狭い青空を見つける。
こうして雨を楽しんでいるつもりだったはずなのに、
あのこの公園よりもさらに狭そうな青空が、
近づいてくるのをのぞんでいることに気が付く。 

 しかし雨が好きという気持ちとは決して矛盾していないつもりでいる。
簡単なことですよと、誰か分析され説明されたとしたら、
黙って聴いているしかないような、ひそやかな自信。
 そしてここに生まれるひとり言の群れ。
 
 たとえば、ナガイメールヲカイテケス…
 たとえば、エノナカノダレカ…


 耳をそばだてて走る。
 低く街の音が届いてくる。
腹の底から伝わってくる、生きるためのエネルギーを象徴する地表を支配する音。
それからのがれようとして走っているのか。
しかしそれは余りに無力な抵抗でしかない。

 ある日知人の子供が工事、工事と叫びながら、
ペットボトルを床に打ちつけて何かがつぶれるような音を
しきりにたてていたのを見たことがある。

 ある種の恐怖を持ってそれを眺めていた。
あの恐怖の正体をもっと正しく知りたいと思う。
そしてそれ以上に知りたくないと思う。
やがて人は、この街の音を子守歌として眠るのだろうか。
 耳を塞ぐ前に、自分の耳に聴かせておきたい言葉。
 
 たとえば、クモミテナイタ…
 たとえば、カミサマノイウトオリ…



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