夢眠のフォーク畑 021
岬 め ぐ り
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 例えば電気スタンドのスイッチが「赤と白」だったとする。
さて、ONはどっちでしょう?
 心理学とか人間工学とかの分野らしい。
寒色と暖色ってのがあって、赤は暖色だからこっちがONなんである。
そういうことになっているらしい。
 しかし、ちょっと待て。
「白と黒」ならどっちがONだ?
 …白の立場はどうなる?

音楽で言えば長調と短調があって、短調は「暗く落ち着く感じ」とされている。
別に異議はない。
ボクもそう感じる。
でも、と思う。
「寒色・暖色」とか「長調・短調」とかをそういう具合に感じるっていうのは、
人間本来が持っている、つまり、本能的な感覚なのだろうか、と。
で、本能的なものらしいんですね、これが。
身体測定をやると、「寒色・暖色」、「長調・短調」で差がでるらしい。
身体測定といっても、身長・体重・視力なんて類ではなく、
汗腺の開き方とか鼓動、脳波の出方なんて専門的な部分の話で、
絵を見たり、音楽を聴いてりゃダイエットできるってことではないのだけれど。
でも、とさらに思う。
それがすべてとは言わないが、小学校以来の音楽や図工・美術、
さらには国語の授業で教え込まれた部分ってのがあるような気もする。
だって、暖かい感じの青とか、暗い感じの長調ってのもある、よね? 
まっさらな感覚で観れば、クワガタとゴキブリはそう変わらん。
ウナギとヘビだって似たようなもんだ。
なのに、ゴキブリとヘビだけが悪者になって・・・って、これは喩えが悪かったか。
ま、「だいたいこっち」程度の大雑把なとこでは各人に共通するにしても、
感じ方なんて人様々であり、その背景にはその人なりの記憶やら経験がある。
そう信じているのだ、ボクは。
おそらくは後天的な教育の成果である「言葉」の世界ではそれがいっそう顕著になる。
「失恋」という言葉からウキウキ気分は感じないだろう。
だけどさ、幼稚園で憧れのケイコちゃんに
「ムーミンくんよりコヘちゃんが好き」
と言われ、登園拒否になったことだって、今になればホノボノ気分には浸れる。
話を聞いて大笑いした園長のコムロ先生が懐かしい・・・程度の失恋もあるだろう。
それが中学、高校へと進み、成人してからの失恋ならちょいとマジになるんじゃないか。
何年か付き合っていた恋人、あるいは配偶者もしくは同居人に去られたショックは、
そう簡単に癒されるものじゃない。

まして、天国に逃げられたという形の「失恋」なら、これは相当のもんだ。
生き別れならいつか会うこともあるかもしれないが、
恨むにしろ毒づくにしろ、相手と住む世界が違うんでは、
これはもう、ちょっと会いにいくかというわけにもいかない。
その日、ボクは海沿いを走る路線バスに乗っていた。
数人が点在する車内でハミングのようなメロディを耳にした。

♪あなたがいつか話してくれた岬を回る・・・(岬めぐり)
 
 ハミングの主は、中年と呼ぶには失礼かもしれない年代のご婦人だった。
窓の外を見ながら低く口ずさんでいる。
海を見て思わず口をついて出ただけなのかもしれないけど、
たぶん、大切な人を失ったばかりなんじゃないかと、ボクは思った。

 ・・・あの日のボクもそうだったから。
                                              夢眠

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