夢眠のフォーク畑 010

歌謡曲

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  カモメ飛ぶ港町で涙に濡れた女が酒を飲むのです。
歌謡曲の世界では、ね。
でも、それでいいんです。
ありゃ作り物の世界ですから。

でもね、現実は甘くないぞ。
ようやく見つけた港町の縄のれんをくぐると、待っていたのは……。
茶髪のおねえちゃんなら上出来で、
オフクロより年嵩のお婆ちゃんだったり、きったねえ親爺だったりするのです。
粋な年増など、そうはいてくれないのです。


TVドラマだってそうです。
砂浜を笑いながら駆けていく若い男女。
つまづいた彼女に手を貸す彼。
見詰め合う二人を夕陽が赤く染めるのです。
それでいいんです。

ボク、海まで歩いていける所に住んでますから、
そりゃね、二人連れで浜辺の散歩くらいはしました。
白状しますが、海に向かって石も投げました。
だけどね、夕陽に向かって「愛してるよ〜」だとか、
「バカヤロウ〜」だなんて叫べませんでしたよ。
そんなカップル見たことない。
たま〜にいたとしても、男同士でふざけるくらい。
あんなもん、洒落じゃなきゃできません。

だいたい、おひさまはこっちの都合に合わせて沈んじゃくれませんし、
夕方の海ってかなり冷えるもんなんです、あれは。


はたまた「戦争は嫌だ、武器を捨てよう、海の底に沈めよう」ってな歌がありました。
昔、“ボロ”だか“もんた”だかが歌ってました。
言ってる内容に異議もありません。

でも、なんかなあ。
本当に戦争を体験したり、戦火の下を逃げた人の前では、ボクは歌えなかった。
書物や映像だけでしか知らないボクとは、重みが違う気がしてね。
自衛隊や米軍基地の前で銃をブラ下げて立っている人たちが
「武器を捨てよう」言ったら、本物って気はしますけどね。

じゃ『戦争を知らない子供達』は
反戦歌を歌ったり、作ったりはできないのか、というとそうじゃありません。


♪夕焼け小焼けで日が暮れない、
山のお寺の鐘鳴らない……


空襲で焼かれた町の炎が夕焼けのように空を染め、
鉄砲弾のために梵鐘まで供出させられた時代の、子どもたちの替え歌です。
自分の家も焼かれてしまったから

「おててつないで帰れない、
カラスもお家に帰れない」


と続きます。
いかがでしょう?

戦意高揚だけの軍歌はごめんなさいですが、
探せば厭戦歌とでも呼びたいものがかなりあります。
いわば、歌の選択ではなく、歌の洗濯です。


 さもなきゃ『さとうきび畑』です。
風に揺らめくウージの森で、60年前には凄絶な殺戮があったと想いを馳せることなら、
今のボクたちにも体験可能です。

そりゃね、モノを書く場合、ドラマやストーリー展開のために設定を借りることはあります。
場所が港町だったり、時代は戦時下だったりします。
主役なんか作者とは似ても似つかぬ二枚目です。
でもね、かなり自分の中に入っていないと、ただの背景にしかならないのです。

身の丈にあった設定と言いましょうかね。
ボクにモテないブ男の生活や心境を書かせてみなさい。
そりゃもう、微にいり細にいり、涙なしには読めないぞ。


 歌謡曲は歌謡曲でいいのです。
それなりに沁みるもんです。
結構、憧れたりするもんです。
港町の赤提灯を入っていく男の背中は、どこか高倉健を気取っていたりします。
一緒に虚構の世界で遊びましょうよ。

でもね、フォーク・ソングでは、もし、その歌がフォークだと言うなら、
せめて身の丈に合った、地に足の着いた自分の言葉で歌いたいんだよなあ。
                        
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