夢眠のフォーク畑 003

素朴と露骨





だいぶ前の話になるけど、
小泉キョンキョンのCMに「ベンザ・エースを買ってください」ってのがあった。
このコピーを初めて目にしたとき、ぶったまげましたね。
スゲー。
だって、宣伝文句なんてすべてこれを言いたいわけです。

でも、それじゃ身も蓋もないからコピー・ライターは日夜、奮励努力を重ねているんです。
「胃にやさしい」だの「クシャミ3回」だの、
みんな「買え」という言葉を隠す包み紙みたいなもんです。

だいいち「×△★#▼◎*配合」なんて舌を噛みそうな薬品名を言われたって、
何に効くのかあたしにゃわかりません。
けど、なんとなく、効くような、ありがたいような……

だから、あのコピーは反則技に近い。
これをやられたら他社はもう使えない。
だって、考えてもみてください。
朝から晩までTVに「買え」「買え」って迫られたら視聴者はどんな気になるか……


最近はメールやら携帯電話に押されて劣勢のようですが、ラブ・レターだってそうです。
あれは「あなたが好きです」ってことを伝えるもんです。
だけどそんな直接的な告白はテレくさいし、
露骨なヤツだと思われるんじゃないか、と悩むわけです。
昨日までマンガしか読んだことのないニキビ面の野郎が、
詩人あるいは小説家に変貌する一瞬です。

図書館に通い、古今東西ありとあらゆる名作のダイジェスト版を斜め読みし、
恋愛映画の台詞を追い、ついには詩集、画集の類まで漁り、
3か月ほど悩みぬいたニキビは原点に立ち返ることにしました。
画用紙とクレヨンを買ってきて、たっぷり余白をとり、真ん中に小さめに書いたのです。

「あなたが好きです」。

これは実話です。
その恋愛が成就したかどうかは知りません……



ニキビの手紙は素朴といっていいでしょう。
ベンザ・エースのコピーは、技巧的素朴かもしれません。
しかし、いずれも伸吟苦吟を繰り返し、修羅場を潜り抜けた結果の産物です。

ところが、いるんですなあ、これを見て形だけ真似する輩が。
文字面だけ見りゃ同じですが、ちょいと突っ込まれると底が割れる。
なにせ先人たちのような血と汗と涙で築いた基礎ってえもんがありませんから、
すぐにぐらつく。
すぐにバレる。

えっ、フォーク・ソングの話じゃないの? 
フォーク・ソングの話です。


  自分の好きなフォーク・シンガーが敬愛するフォーク・シンガーがいて、
彼の来日公演があることをある日、コムロ青年は知るのです。
で、目からバラバラと鱗が落ち……。
やがて『無題』という歌を作ります。

実に素朴な小さな歌です。あるいは、劇作家の手になる作品で

♪ゲンシバクダンはこわいな〜

と、率直に歌います。

そして、その素朴さを形だけまねたフォーク・シンガー・モドキが横行し、
つまりは「買ってください」連発TV状態となった日本フォーク界は衰退の道を辿るのです。

だからぁ、フォーク・ソングってのはアマチュアで構わないんだけどぉ、
自分なりに消化した言葉で歌うんだよぉ。
そんなふうな文化運動なんだってば。 
                                              夢眠



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